緑の中を走り抜けてく真紅なポルシェを思い描こうとする度にいつか麻布を走っていたフェラーリ360モデナの映像が再生される

赤い車といえばフェラーリである。


F1ではイタリアのナショナルカラー(その国を体現すると見なされている色)の赤い車体に赤いマルボロのロゴ(以前は、赤いクオーテーションマークを丸で囲ったロゴのボーダフォンもスポンサーだった)、エンブレムの黄色の背景色と車体の赤の組み合わせはロイヤル・ダッチ・シェルのホタテ貝とも一致する。
フェラーリの純正色の赤は「フェラーリ・レッド(イタリア語ではロッソ・コルサ)」とも呼ばれる。フェラーリのデザイナーとして『エンツォ』や『599』を手掛けた奥山清行は、最終的に赤い車体とすることを前提にデザインしており、実際の売上においても、フェラーリ購入者の八割以上は赤を選ぶといわれる。

しかし、少なからぬ日本人が赤い外車からフェラーリではなく、ポルシェを連想する。これには1978年の山口百恵のシングル『プレイバックPart2』の「真紅(まっか)なポルシェ」という歌詞が大きく影響している。

 


山口百恵 プレイバックPart2(歌詞付) - YouTube


同年、山口はこの曲で紅白歌合戦の紅組のトリを務めた。

紅白より前に出演したNHKの番組では、「ポルシェ」の部分が広告放送に該当するとして、歌詞を「車」に変更して歌っていた。「真紅な”車”」という歌詞を聴いて脳裏にフェラーリを思い浮かべていた人は、紅白でポルシェだと明かされ拍子抜けした筈である。
手を加えない本来の歌詞は、紅白というNHKにおける最も大きな舞台で披露することができたわけだが、皮肉なことに、その年は74年から続いた第一次スーパーカーブーム終焉の年となる。

一種の誤解を招く曲は他にもある。

 


50 Cent - Wanksta - YouTube


ア メリカのヒップホップMCの50centは、2002年にリリースした『wanksta』のPVで、車の後部座席で赤いキャップを被り、胸に赤い 「FIFTY」のパッチが付いたキルティングジャケットの中に赤いTシャツを着て、赤いビキニを着た女性を横に座らせ「やあ、ぼくフィフティ。フェラーリ のF50と同じ50だよ。よろしくね」とラップしているにも関わらず、乗っているのは同年発売された最新型SUVのGM社製『ハマーH2』で、映像の中に フェラーリは一度も登場しない。
ちなみに、去年、50centがハイウェイで大型トラックに追突される事故に遭い、首と背中に怪我を負った際に乗っていたのも、GM社製SUV(防弾仕様の『シボレー・サバーバン』)だった。

 

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フェラーリとポルシェは、どちらもエンブレムのモチーフに跳ね馬(ドイツの都市シュトゥットガルトの紋章)を使用していることから両者が混同される要因の一つとなっている。
この画像に写った外車は赤く、フェラーリのような印象を受ける。また、人によっては「真紅なポルシェ」のように見えるかもしれない。

しかし、前輪の斜め上のエンブレムをよく見ると、黒背景に黄色の跳ね馬である。黄色背景に黒い跳ね馬の、フェラーリのエンブレムとは逆である。

この車はイタリアのメーカー、ランボ ルギーニ社の『ガヤルド・スパイダー』という。フェラーリでも、ポルシェでもない。

本来、ランボルギーニのエンブレムは黒背景に黄色の暴れ牛の筈だが、フェラーリと勘違いさせるという、一種のジョークとしてつくったエンブレムなのだろう。

はじめに述べた通り、赤はイタリアのナショナルカラーであり、イタリアの車メーカーにはフェラーリやランボルギーニ以外にもフィアットアルファロメオ等、赤い車をラインナップしたメーカーが他国と比べ多い印象を受ける。しかし、フェラーリの持つ赤のイメージというのは、このような自嘲的ともとれるジョークが成立するほど強いものなのである。

 

ややこしいついでに述べておくと、ランボルギーニを運転しているのは、ヘルメットを被った異様に座高の差がある若者ではない。