ツタヤのサイトは使いづらい

 テレビ中継でマラソンランナーを見ると、速いなあと思う。特に斜めからのカット、歩道にいる人達が物凄いスピードで画面端から現れ、逆サイへと消えていく。大体このアングルで速いと判る。正面からのカットでは殆ど進んでいないように見える。しかし正面から撮ると、奥行きが掴めない為、先頭ランナーのすぐ後ろまで他のランナーが差し迫って来ているように見える効果がある。

 

 ランナーは20km/hに近い驚異的なスピードで走っており、とても人間とは思えない。生命を燃やしながら走っているその姿に感心しながら観ていると、ふと、ピンボケした白バイのVFRがのろのろ走っているのが目に留まる。そこで興が醒める。どっちらけである。ホンダのこのバイク、少しアクセルを回すだけでランナーを地平線上の点にすることができる。最高時速は200km以上出る。白バイ隊員は、「こいつらめっちゃつらそうだし何年も頑張ってるんだろうけど俺がアクセルを3cm回すだけで『ウヲーン!』とかいってブッちぎれちゃうんだよなあ。うける」なんてことはそもそも発想したりし得ない、「私は景色の一部だ」とでもいうような、NHK杯テレビ将棋トーナメント記録係の荒木宣貴三段のような面持ちでただそこにいる。

 

 ハードルを飛んでいる人の横をブッちぎりたくなる100mランナーはいるんじゃないか。クロールしている人をプールサイドで早足で追い抜いたり、それがいわば試合における負けでも勝負には勝ったのだと、ひとり内心ほくそ笑む醜悪さこそが人間の正体なんじゃないのか。心のなかにあるイイトコメガネを使って人を見て、あれは顔は良いがこちらには金がある、学があるだの、絶えずそんな背比べをしていないと不安で仕様がない。自分より下の人間を見て安心したい。植え込みやガードレール等と同様に配された景色の一部のような、一見主張のないその表情によって欺瞞に満ちた人間の有り様を告発する白バイ隊員達はとても素晴らしい方々なのではないでしょうか(「ぼく・わたしもそう思う」という人は「そうかな?」と、もう一度よく考えてみよう)。

 

~完~