恋宙

宇宙怪談(@spacekaidan)さん | Twitter』は、9人の執筆者による共有アカウントで、ぼくも書かせてもらっています。アカウントの知名度はそこまで高くないかもしれません(あとで気になって9人+宇宙怪談アカウントのfollowersをざっと合わせてみた感じでは4万人くらいいて驚きました)が、実力は折り紙付き(スペースジョーク)です。

 

そんな宇宙怪談の本が出ます!詳細は下記の通りです。

 

<イベント告知>

コミティア112

2015年5月5日 東京ビッグサイト

サークル名:劇団デブリ

スペース:V23a

 

内容は書き下ろしメインで、ほかはTwitterで投稿されたいいやつが数本載ります。深く考えず、フリーマーケットのつもりで気軽にご参加ください。

国際展示場駅からすぐのところにある東京臨海広域防災公園の帰りにでも(最高の防災体験学習施設でめちゃめちゃ為になるので)寄ってください。乗り捨て型のレンタル自転車でサイクリングもお勧めです。船の科学館で南極観測船宗谷を見学した後、日本科学未来館の企画展チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地で遊んだ後、お台場でショッピングした後、大江戸温泉物語で温まった後、夜のゆりかもめで宇宙的な景色を味わいながら……いつでもどこでも楽しめる!劇団デブリの宇宙怪談!

ごめんなさい、急にグイグイと……でも是非お手に取って頂きたいんです。

 

内容もそうですが、たのもしく有能な大人達のパワーでハイクオリティな本ができそうです。そんないい本に載せてもらえるなんておれは何様なんだという感じがします(卑屈をこじらせると具合が悪くなるのであまり考えないようにしています)。

 

さて、『恋宙』は以下の理由で本には寄せず、自らボツにしたお話です。

 

・オリジナル創作←アウト

・アウトっぽい表現←アウト

・他の掲載作とのギャップ←アウト

 

そんなわけで、こちらへのウピーをもって供養とさせていただきます。

 

<追記>↑ 載ることになりました。下にある『恋宙』、それともう一本の書き下ろし『見て見てゴンゴン』です。恋宙の後に書いたこともありその反動で、見て見ての方はわりとまとまった(「こなれてる」という評をもらった)話になりました。見て見ては頭から書いた恋宙とは逆にお尻から書いたのでそういう印象を持たれる話になったのかな。読む人が……楽しんでくれたら良いなと……?……思って……書きました……そんな気がします!読んでください!おねがいたのむー!たのむ!

 

 

 

あの時はまだ、運命なんて信じてなかった。

でも、ふたりの小指は運命の赤い宇宙ひもで繋がってたんだ。

どこまでも果てしなく広がるこの宇宙であなたとランデブーできたのは、そう、きっと運命――

 

 「ジュポルポ!!!ズバババ!!ヌッ!ヌッ!!ハッブル!ズバン!ノボパッ!!!!」

 「ウ、ウウ!!ウォゾン!」

 そう言ってオヤジはブルブルと震えた。

 これで6万ギャラクシー円。お小遣いとしては結構な額になる。ブランド物の宇宙服やバッグみたいな、同級生のコたちが欲しがるような物は大抵なんでも買える。

 けど、アタシは欲しくなかった。

 部活にも入ってないし、恋とか愛もよくわからない。したいこともすることもなくて、寄ってくるオヤジ達の相手をなんとなくしてる。銀河連邦警察にチクられたら都合が悪いから、こっちから出せと言わなくてもオヤジ達は勝手にお金を置いていく。

 シャワーも浴びず、脱いだままベッド脇に転がっていた船外活動用の制服を着て外へ出た。

 

 携帯を開いてセンター問い合わせをすると、チアキからメールが来た。

 「免許取った友達がシャトルで火星まで連れていってくれるんだけど、ナオも来るでしょ?ショッピングセンターのシャトル停めるとこにいるよ」

 チアキは同じ商業高校に通っているコで、背が低く、目が大きくて可愛い。チアキのパパはいくつか会社を持ってて、家は白くて大きい。地元じゃセレブとして知られている。チアキは普段はやさしいけど、自分に歯向かったり、気に入らないコがいるとテッテー的にイジメて村八分にするという、こわいところもある。アタシはおとなしくしていて無害だからなのか、チアキには可愛がられてて、よくこうして声を掛けてもらえる。

 「行こっかな。断ると怖いし……」アタシはメールで返事したあと、待ち合わせ場所に向かった。

 

 ショッピングセンターのターミナルに着くと、白いシャトルの前でチアキが手を振っていた。そばに男の子も二人立っていた。

 「おそ~い!何してたの!?」

 「ごめんね。……えっと」

男の子の方を見る。

 「あ、オレはチアキと同中のコウイチ。ヨロシクね!」

なんだかチャラそうで、アタシは「ちょっとニガテなタイプだな」と思ったけど、愛想良く挨拶した。

 「で、こいつがマモル。オレの幼馴染」

 「マモル。ヨロシク」

 目が合った瞬間、アタシの体に電流が走った。今思えば、アタシは「この人がアタシの運命の人だ!」って直感したんだと思う。でも、この時は、それが「恋」という感情だとは気付かなかった。

 これがマモルとアタシとの初めての出会いだった。

 

 シャトルは火星に向けて出発した。

 コウイチはよく喋るタイプで、口数の少ないマモルに操縦を任せっきりにして、代わりに色々なことを話してくれた。マモルは小さな頃から喧嘩が強く、入学初日に三年生をシメて銀河番長になったこと、すごくモテるのに特定の彼女がいたことがないこと、シャトルの操縦が銀河で一番と言われるくらい上手くて、宇宙一のパイロットになるのが夢なんだということ。

 

 「わたしちょっとトイレ」そう言ってチアキが立ち上がって目で合図してきた。

 「ア、アタシも」

 

 トイレでチアキが化粧を直しながら、鏡越しに声を掛けてきた。

 

 「ねえ、コウイチどう思う?」

 「え?……うーん、いい人なんじゃない?」

 「そう思う?よかったー」

 「なんで?」

 「わたし、マモルのこと好きなんだ」

 「え……」

 ドキッとして、胸の辺りがチクッと痛んだ。チアキが振り返る。

 「じゃあわたし、コウイチとナオのこと応援するから、逆にナオはわたし達のこと応援してね!」

 チアキのキラキラした目に見つめられ、思わず返事をしてしまった。

 「うん……うまくいくといいね」

 

 火星に着いて、二組に分かれて別行動することになった。

 「さ、行こうか」

コウイチが腰に手を回してくる。でも、頭の中はマモルとチアキがどうしてるのかでいっぱいだった。

 「元気ないけど大丈夫?」

 コウイチが顔を覗き込んできて、キスされた。

 わけもわからず固まっていると体中を触り始めた。

 「え、やだ」

 思わず腕を払ってしまった。すると――

 バシッ!

 バシッ!バシッ!

 連続でビンタされた。

 ほっぺたが熱くてジンジンする。

 そしてコウイチは再び無言で体中をまさぐり始めた。

 アタシは怖くて動けなくなってしまった。その時だった

 「おい!」コウイチの手が止まる。

 振り返ると、クレーターの縁にマモルが立っていた。

 「チッ」コウイチは小さく舌打ちをして、またシャトルの中にいた時のような笑顔に戻った。

 「なんだよ。せっかくいいとこだったのによー」

 「心配になって様子を見にきたらやっぱりそうだ。こいつを女の子と二人にするといつもこうだ……ごめんな」

 マモルがそう言ってアタシの肩を抱いたとき、安心して思わず涙がこぼれた。

 チアキはマモルの後ろに立って、ずっと黙っていた。

 

 シャトルに戻って星に帰るあいだ、会話はひとこともなかった。

 星に着いて座席から立ち上がったとき、マモルが「困ったことがあったら言って」と、連絡先の書かれたメモを渡してきた。チアキが見てないのを確認して、受け取った。

 「あの、本当にありがとう」

 「もういいって。……ほら、お前、なんか言うことあんだろ」

 「あ、いや~ナオちゃんゴメンね!また遊ぼうよ!」

 「……」

 怒る気持ちも沸いてこなくて、俯いてタラップを降りた。チアキの姿はもうなかった。

 

 マモルのことは嬉しかったけど、いやな予感もした。なんとなく期待と不安の入り混じった気持ちのまま家に帰った。

 

 翌日、そのいやな予感は的中した。登校すると、まず上履きが無かった。それに、アタシを見る他の生徒達の様子がおかしい。教室に行くと、アタシの名前と「売女」「糞ビッチ」「ブス」「死ね」等と悪口が書かれていて、机を見ると中はデブリまみれになっていた。アタシは「チアキが命令してやらせたんだ」とすぐにわかった。これまでに何度か同じようなことがあったけど、今度はアタシがチアキを怒らせたんだ。廊下で他の女子達と話してるチアキに声を掛け、屋上に連れ出した。

 

 「あの……」

 「マモル、アンタのことが好きなんだって」

 「えっ……」

 「二人になった時にそう言われた。こんなショックなこと初めて。これじゃわたし、ピエロじゃない。言っとくけど、これだけじゃ済まさないから。じゃ」

 「……」

 何も言えなかった。チアキの言ったことが本当なら、すごく嬉しいけど、でも、これからどうしていけば……

 

 とても授業を受ける気分じゃなかったから帰ることにした。家に着いてベッドに横になり、マモルのくれたメモを見た。

 「……連絡してみようかな」

 

 

 その時に送ったメールを切っ掛けにして、アタシとマモルは付き合うことになった。

 学校はやめた。それでも、チアキの嫌がらせは終わらなかった。頼んでもない寿司やピザが届いたり、デブリが投げ込まれて家の窓ガラスが割られたりした。とても耐えられなくなり、アタシはマモルの家に転がり込んだ。マモルの両親は地球に出稼ぎに行っていて、実質マモルの一人暮らしの家だ。マモルは銀河の向こう側からの越境入学だから、家の近くでコウイチやチアキ、その仲間や取り巻き達と顔を合わすこともなかった。

 アタシはマモルと一緒に暮らして、愛して愛される喜びを知った。もっと早くに出逢えていたら、もっとずっと長く幸せでいられたのにと何度も思った。そんなある日、アタシは妊娠した。マモルとアタシの子だ。マモルはどう思うだろうと不安だったけど、思い切ってそのことを告げるとすごく喜んでくれた。学校をやめて宇宙往還機の長距離ドライバーになってくれると言ってくれた。本当に毎日が幸せで、この幸せがいつまでも続いてくと思っていた。

 

 市役所に母子手帳を貰いに行った帰り道でのことだった。目の前で真っ黒なシャトルが急ブレーキで停まり、中からコウイチと仲間達が現れた。

 「お前見付けたら何しても良いって言われてんだよ」

 恐怖で声を上げることもできないまま引きずり込まれた。ドラッグを飲まされわけがわからないまま何人もの男に次々と弄ばれて、宇宙空間に捨てられた。宇宙風に流されるままに漂っていると、音もなく迫ってきたデブリがお腹に直撃した。アタシは絶望のどん底に落ちた。

 

 なんとか母星に帰るとすぐ病院で検査を受けた。子供はだめだった。心配させるのはイヤだったから、コウイチ達にやられたということは言わずに、子供のことをマモルに伝えた。

 「お墓をつくろう」

 マモルについていくと、近所のクレーターにやってきた。周りを見回し、落ちていたモノリスを拾ってクレーターの真ん中に突き立てた。

 「これから毎年、ここに墓参りに来よう。それくらいしか、残された俺達にしてやれることはないから……」

 マモルは泣いていた。アタシも泣いた。

 

 そしてまたアタシ達の生活は再開した。でも、マモルは少しずつ変わっていった。怒鳴ったり、暴力を振るったりするようになり、その度にアタシの手首の傷も増えた。マモルはいつも、アタシを殴ったあとに慰めてくれた。

 「愛してるから暴力を振るうんだ。お前はどこにも行かないよな?ナオ……」

 そう言っていつもアタシの髪や頬を撫でてくれた。その度にアタシは頭では納得してるつもりだったけど、時々我慢できなくなって、タバコで腕や脚を焼いたり、たくさんの睡眠薬を酒で流し込んで病院に運ばれたりした。

 ある日、家に帰ると女がいたことがあった。とうとう我慢できなくなって家を出た。あてもなくフラフラさまよったけど、アタシの行く場所なんてこの宇宙のどこにもなかった。全身ボロボロの体やボサボサの髪。こんなアタシに声を掛けてくる人はどこにもいない。アタシはなんの役にも立たないデブリと同じ。ゴミデブリだ。

 

 そうして三ヶ月ほど経って、アタシは家に戻ってみることにした。しかし、マモルの姿はどこにもなかった。部屋でマモルの帰りを待っていると、遺品を整理する業者がやってきた。アタシがいないあいだに、マモルは死んでしまっていたのだ。

 

 風景がグニャ~ンと曲がった。

 

 気がつくと、アタシはブラックホールになっていた。

 コウイチやチアキ達を吸い込んだ。回転しながらスパゲッティみたいなニョロニョロになっていくのが笑えた。

 あらゆる星を吸って膨張を続けていたある日、時空間の裂け目から一冊のノートが飛び出してきた。

 表紙には「闘病ノート」と書かれていた。この字には見覚えがある。そうだ、マモルの字だ。

 

7/8 末期の宇宙放射線病と診断された。宇宙船の操縦は無理と言われた。

7/25 ついナオに八つ当たりしてしまう。何もうまくいかない。

9/15 ごめんいいたい ナオどこにもいない あたらしいくすり

10/13 ナオ あいしてる あす しゅずつ

11/28 うで うごかなく なて きた

…………

 

 それより先はぐしゃぐしゃの文字と涙で読めなくなった。アタシはバカだ。マモルは必死に病気と闘ってたのに、何もしてあげられなかった。

 マモルはきっと……天国の赤ちゃんに会いに行ったんだね。そばにいてあげられなくて、本当にごめんね。

 

 アタシは宇宙を飲み込むのをやめた。